mogeru2_4.jpg


 僕は言葉を失った。着ぐるみの中から現れたのは、僕の父親だったのだ。
 僕は父を正視できなくなり、目をそらした。
 父は先月、勤めていた会社が倒産し、失業中だった。正社員としての雇用が決まるまでは、少しでも収入を得るために短期の仕事もしていたようだったが、まさかこんなことまでしているとは思わなかった。
 父に見据えられながら、胃が痛くなるような嫌な沈黙が続いた。

「健二」
 名を呼ばれても、僕は顔を上げることができなかった。すると父は僕の顔を無理やり持ち上げると、一発、僕の頬を張った。父の右手はタイツに覆われていたため、いつもよりは痛みを感じなかった。
「人様に迷惑をかけるような真似だけはするな。わかったか?」
 父の問いかけに、僕は小さく「うん」とうなずいた。
「わかれば、いい」